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最高裁判所第二小法廷 昭和48年(オ)1113号 判決

上告人

株式会社宮川

右代表者代表取締役

宮川一雄

右訴訟代理人弁護士

加藤一芳

外一名

被上告人

岐阜商工信用組合

右代表者代表理事

平野忠夫

右訴訟代理人弁護士

西村真人

外六名

主文

原判決中上告人敗訴部分を破棄する。

右部分につき本件を名古屋高等裁判所に差し戻す。

理由

上告代理人加藤一芳、同原山剛三の上告理由について

原審が確定した事実は、次のとおりである。

(1)  被上告人は、中小企業等協同組合法に則つて設立された信用協同組合であつて、岐阜県岐阜市、稲葉郡及び羽島郡一円を組合地区とし、右地区内に住所若しくは居所を有する者又は右地区内において事業を行う小規模の事業者等を組合員の有資格者とし、その組合員となる者には出資(一口五〇〇円)を義務づけている。

(2)  上告人は、昭和三五、六年当時岐阜市清住町三丁目一一番地に本店を置き、提燈、屏風を製造販売する零細ないわゆる個人会社であつた。

(3)  上告人は、昭和三五年七月一一日被上告人から手形貸付を受ける際三万五〇〇〇円を出資して被上告人の組合員となり、次いで同年八月八日手形貸付を受ける際二万円の追加出資をした。

(4)  上告人は、昭和三五年一〇月三一日被上告人から七五〇万円を、弁済期昭和三八年八月三〇日、利息日歩四銭(のちに貸付日分から日歩三銭五厘に軽減された。)、期限後の遅延損害金日歩八銭の約定で借り受ける旨の金銭消費貸借(以下「本件貸付」という。)契約を被上告人と締結したが、右貸付金から次の(イ)ないし(ル)の各金額の合計三〇五万四一五〇円を控除され、現実に交付を受けたのは四四四万五八五〇円であつた。

(イ)  本件貸付金七五〇万円に対する昭和三五年一〇月三一日から昭和三六年一月二八日までの日歩三銭五厘の割合による利息二三万六二五〇円

(ロ)  本件貸付債務の保証人の資産信用調査費等一五〇〇円

(ハ)  確定日付料三九〇円

(ニ)  公正証書作成料三一九〇円

(ホ)  印紙代九八〇円

(ヘ)  本件貸付債務担保のため訴外宮川松枝所有の建物及び訴外村手敏雄所有の田畑五筆に設定された根抵当権設定費用六万円

(ト)  右抵当建物に付された火災保険の一か年分の保険料一万一八四〇円

(チ)  被上告人の組合員としての一〇〇〇口の出資金五〇万円

(リ)  上告人と被上告人との間において、本件貸付にあたつて締結された契約額一四四万円(月掛金四万円)及び二一六万円(月掛金六万円)、期間各三年の二口の定期積金(以下「本件定期積金」という。)契約の一か月分の掛金小計一〇万円並びに本件貸付前に締結されていた契約額三六万円(月掛金一万五〇〇〇円)及び六〇万円(月掛金二万五〇〇〇円)の二口の定期積金の昭和三五年一〇月分の掛金小計四万円の合計一四万円(以上四口の定期積金を以下「四口の定期積金」という。)

(ヌ)  本件貸付にあたり被上告人が上告人に対し要求して契約された利率年五分一厘の定期預金二〇〇万円(以下「本件定期預金」という。)

(ル)  被上告人が本件貸付と同時に手形貸付(以下「本件別口貸付」という。)契約により上告人に貸し付けた四〇〇万円に対する昭和三五年一〇月三一日から昭和三六年三月四日までの日歩二銭の割合による利息一〇万円、

(5)  本件貸付については、上告人が本件別口貸付を受け、かつ、その借受金を即時被上告人に預金することが条件となつていたので、上告人は右貸付を受けると同時にその借受金四〇〇万円をむつみ定期預金(「全国信用協同組合連合会むつみ定期預金」という名称の割増金付定期預金で、契約期間は六か月、利息は年三分六厘で期間満了日支払、割増金の総額は預金額一〇〇〇円を一口とする一〇万口につき七四万円で、その抽選及び支払は期間の途中でなされるもの、以下「本件むつみ定期預金」という。)とし、これを本件別口貸付債務の担保として被上告人に差し入れた。

(6)  本件定期預金及び四口の定期積金の掛金に対しては本件貸付債務の担保として質権が設定された。

(7)  本件貸付に際し、本件貸付債務を含む上告人の被上告人に対する取引上の債務の担保として、宮川松枝所有の価額約二六万円の建物及び村手敏雄所有の価額約五四〇万円の田畑五筆にそれぞれ元本極度額六〇〇万円の根抵当権が設定され、また、本件貸付債務の連帯保証人宮川松枝、村手敏雄、宮川一雄、川瀬松太郎、水野覚久等の資産のうち右連帯保証債務の引き当てとなる主な資産は、村手敏雄所有の田畑四筆(約九三万円相当)及び水野覚久所有の田畑四筆(約一二四万円相当)、動産(約二〇万円相当)であつた。

(8)  本件貸付契約において、上告人が四口の定期積金の掛金の支払を遅滞したときは、本件貸付の残債務につき期限の利益を失う旨約定されていたところ、上告人は遅くとも昭和三六年四月二五日までには右期限の利益を失つた。

(9)  被上告人は上告人に対し、昭和三六年五月一二日以降本件貸付金に対する遅延損害金のうち日歩六銭を超える部分を放棄した。

(10)  本件定期預金契約及び本件定期積金契約は昭和三七年七月三一日に解約され、右預金及び積金は本件貸付債務及び昭和三六年三月一三日付貸付の一六〇万円の債務の一部の弁済に充当された。

(11)  全国の信用協同組合において貸付を受ける組合員の出資額の貸付額に対する標準的比率は五ないし一〇パーセントであり、被上告人においても貸付額の八ないし一〇パーセントの出資を有することを貸付基準としていた。

原審は、以上の事実関係のもとにおいて、四口の定期積金の掛金合計一四万円、本件定期預金二〇〇万円及び本件むつみ定期預金四〇〇万円合計六一四万円は払戻を拘束された即時両建預金に該当するから、本件貸付及び本件別口貸付の合計一一五〇万円から右即時両建預金を控除した残額五三六万円を本件貸付における実質的な貸付額と認めるべきであり、本件貸付及び本件別口貸付の合計一一五〇万円に対する右即時両建預金六一四万円の比率は約53.3パーセントにも達しており、また、右実質的な貸付額とこれにつき支払われることとなる実質的な貸付利息(契約上の貸付利息から即時両建預金の利息を控除したもの)の割合(実質的な貸付額に対する実質的な利息の割合を以下「実質金利」という。)は、年約一割七分六厘となり、利息制限法所定の最高利率年一割五分を約二分六厘上回るものであるとしたうえ、本件貸付契約は、私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(以下「独禁法」という。)二条七項五号及び同項に基づき公正取引委員会の指定した不公正な取引方法(昭和二八年同委員会告示第一一号、以下「一般指定」という。)十に該当し、独禁法一九条に違反するが、その違反の程度は軽いものというべきであるから、右契約は無効でないと判断し、本件貸付債務の元本、利息及び遅延損害金につき被上告人が一部弁済を受けたことを認定したうえ、上告人は被上告人に対し、本件貸付債務の残元本三一七万九七六四円及びこれに対する昭和四〇年一〇月二三日から完済まで日歩六銭の割合による遅延損害金を支払うべき債務を負うが、これを超える債務は負わないとして、右に応じ、上告人の本訴請求は、一部を正当として認容し、その余は失当として棄却すべきものである、としている。

思うに、銀行、信用金庫、信用協同組合等の金融機関が、中小企業等の顧客に貸付をするにあたり、貸付金に対する実質金利を高める等の目的のもとに、自己の優越的地位を利用して、顧客が現実に借受を必要とする金額(顧客が負担すべき契約締結費用、天引利息その他顧客が控除されることを任意に承諾した債務金等を含む。)(以下「実質貸付額」という。)を超える金額につき、顧客に借受を要求して、実質貸付額についての消費貸借契約と一体として、又は右契約と別個に、消費貸借契約を締結して、実質貸付額を超える金員を貸し付け(以下「超過貸付」という。)、これと同時に超過貸付額を自己に対する預金として預け入れさせ、これに担保権を設定するなどして法律上又は事実上その払戻を制限するなどいわゆる拘束された即時両建預金をさせたときには、このような預金契約及びそのための超過貸付についての契約は、その目的に照らし、実質貸付額についての契約に附された取引条件というべきであり、このような預金契約及び超過貸付についての契約が右の取引条件として合理性を有しないものであつて、右各契約が複合することによつて顧客に対し正常な商慣習上是認し難い不当な不利益を与えている限り、実質貸付額についての契約、拘束された即時両建預金契約及び超過貸付についての契約は、独禁法一九条及び利息制限法の適用上、実質的に一体不可分のものとして総合的に評価するのが相当である。

上述したところによつて、本件をみると、本件貸付中の二〇〇万円及び本件別口貸付四〇〇万円は前述の超過貸付額に該当し、これらによつて設けられた本件定期預金二〇〇万円及び本件むつみ定期預金四〇〇万円は、本件貸付及びこれと同時になされた本件別口貸付に対する拘束された即時両建預金に該当すると判断するのが相当である。

原審は、本件貸付金から控除された四口の定期積金の掛金合計一四万円についても上告人に不当に不利益を与える拘束された即時両建預金に該当すると判断する。しかし、右定期積金契約のうち本件定期積金契約は、契約額の合計が本件貸付額を超えないものであり、その掛金も第一回分の一〇万円だけであつて過度の一時先掛けがなされているわけのものでないから、それは長期の融資である本件貸付の割賦返済の方法としてなされたものとみるのが相当であり、右定期積金の掛金につき本件賃付のため質権が設定されたとはいえ、いまだ正常な商慣習に照らして上告人に不当に不利益な取引条件であるといい難い。また、その余の定期積金の掛金四万円は本件貸付前に締結された定期積金の当月分の掛金の支払にすぎず、本件貸付契約の取引条件であつたと判断するのは相当でない。なお、前記(4)(チ)の五〇万円の追加出資は本件貸付金から控除してなされたものであるが、右のような出資は、より多数の組合員の借入需要に応ずるための資金準備上合理性があり、その額の本件実質貸付額に対する比率は全国の信用協同組合が採用している貸付基準である出資額の貸付額に対する比率を逸脱していないのであるから、右の追加出資契約は、正常な商慣習に照らして上告人に不当に不利益な条件に該当するといえず、これと同旨の原審の判断は正当として是認することができる。結局、本件貸付における実質貸付額は、本件貸付及び本件別口貸付の合計一一五〇万円から前記の即時両建預金の合計六〇〇万円を控除した残額五五〇万円であるとみるべきである。

そうすると、本件においては、金融機関である被上告人が経済的弱者である上告人に、実質貸付額五五〇万円にすぎない本件貸付をするにあたり、その取引条件として、前記のとおり本件貸付契約及び本件別口貸付契約により合計六〇〇万円を超過して貸し付け、右金員を拘束された即時両建預金である本件定期預金及び本件むつみ定期預金とさせたものであると認めるべきである。そして、右実質貸付額に対比すれば十分な物的及び人的担保があるのに、本件貸付及び本件別口貸付の合計一一五〇万円とこれに対する拘束された即時両建預金の合計六〇〇万円との比率は約52.2パーセントに達し、また、上告人が被上告人に支払うべきものとされる利息(本件貸付金に対する日歩三銭五厘の利息及び本件別口貸付金に対する日歩二銭の利息)から上告人が被上告人から受け取るべき利息(本件定期預金に対する年五分一厘の利息、本件むつみ定期預金に対する年三分六厘の利息及びその実質は利息にほかならないというべき本件むつみ定期預金の割増金総額を総口数に平分して年利率に換算した一分四厘八毛相当の割増金)を控除した実質的な利息の実質貸付額に対する割合、すなわち実質金利は、計算上年一割七分一厘八毛余であつて、利息制限法一条一項所定の年一割五分の制限利率を超過するなどの事情が認められるのであるから、前記取引条件は、少なくとも、被上告人が実質貸付額五五〇万円の貸付にあたり不法に高い金利を得る目的のもとに上告人に要求したものと認めるのが相当である。したがつて、右取引条件は、被上告人の「取引上の地位が優越していることを利用」して附された「正常な商慣習に照らして相手方に不当に不利益な条件」であつて、被上告人は本件貸付につき独禁法一九条及び一般指定十にいう不公正な取引方法を用いたものであるというべきである。

ところで、独禁法一九条に違反した契約の私法上の効力については、その契約が公序良俗に反するとされるような場合は格別として、上告人のいうように同条が強行法規であるからとの理由で直ちに無効であると解すべきではない。けだし、独禁法は、公正かつ自由な競争経済秩序を維持していくことによつて一般消費者の利益を確保するとともに、国民経済の民主的で健全な発達を促進することを目的とするものであり、同法二〇条は、専門的機関である公正取引委員会をして、取引行為につき同法一九条違反の事実の有無及びその違法性の程度を判定し、その違法状態の具体的かつ妥当な収拾、排除を図るに適した内容の勧告、差止命令を出すなど弾力的な措置をとらしめることによつて、同法の目的を達成することを予定しているのであるから、同法条の趣旨に鑑みると、同法一九条に違反する不公正な取引方法による行為の私法上の効力についてこれを直ちに無効とすることは同法の目的に合致するとはいい難いからである。また、本件のように、前記取引条件のゆえに実質金利が利息制限法に違反する結果を生ずるとしても、その違法な結果については後述のように是正されうることを勘案すると、前記事情のもとでは、本件貸付並びにその取引条件を構成する本件別口貸付、本件定期預金及び本件むつみ定期預金の各契約は、いまだ民法九〇条にいう公序良俗に反するものということはできない。それゆえ、これらの契約を有効とした原審の判断は、その限りにおいて、正当というべきである。

しかし、右取引条件のゆえに実質金利が利息制限法一条一項所定の利率を超過する結果を生じ、ひいては遅延損害金の実質的割合も同法四条一項所定の割合を超過する結果を生じている以上、右超過部分は、同法の法意に照らし違法なものとして是正しなければならない。そして、本件取引において実質金利及び遅延損害金の実質的割合が利息制限法所定の利率及び割合に違反する結果にならないようにするために、本件貸付及び本件別口貸付を通じて貸付利率を一律に是正するとすれば、計算上本件別口貸付の貸付利率についてはかえつてこれを引き上げなければならないこととなつて妥当ではないから、その方法としては、前記各即時両建預金が存在しているため実質金利が利息制限法に違反する結果を生じていた期間中、本件貸付契約中利率及び遅延損害金の割合に関する約定の一部が無効になるものとして是正するのが相当であり、上告人が支払つた利息のうち実質貸付額五五〇万円を元本として利息制限法一条一項所定の利率により計算した金額を超過した部分(なお、前記(4)(イ)の天引利息の実質的な超過部分については、さらに同法二条に従い計算すべきであることはいうまでもない。)及び上告人が支払つた遅延損害金のうち同法四条一項所定の割合により前同様に計算した金額を超過した部分は、民法四八八条又は四八九条により、本件貸付契約又は本件別口貸付契約の残存元本債務に充当されたものと解するのが相当である(当庁昭和三五年(オ)第一一五一号同三九年一一月一八日大法廷判決・民集一八巻九号一八六八頁参照)。

以上のとおりであるから、右と異なる見解のもとに、本件貸付の元本、利息及び遅延損害金の債務の現在額を算出した原審の判断は、法令の解釈適用を誤つた違法があり、この違法は原判決の結論に影響を及ぼすことが明らかである。そして、本件貸付債務がいかなる限度において残存するかは、原判決が確定した事項のほか、さらに、本件貸付の約定利息として支払済の金額、本件別口貸付についての遅延損害金の約定の有無と支払済の金額、本件むつみ定期預金契約の解約された時期、本件貸付債務及び本件別口貸付債務についての弁済充当に関する合意又は指定の有無などの諸事項を考慮しなければならないから、原判決中上告人敗訴部分は、結局、全部破棄を免れないものというべきであり、叙上の見地に立つてさらに審理を尽くすため(なお、原審は、本件貸付債務の遅延損害金の割合が被上告人の一部放棄により昭和三六年五月一二日以降日歩六銭に低減されたことを認定しながら、原判決末尾添付の別紙貸付関係計算書においては同年一一月一六日以降日歩六銭に低減されたものとしてその金額を計上しているから、この点について原審の判断には理由の齟齬がある。)、右部分につき本件を原審に差し戻すこととする。

よつて、民訴法四〇七条一項に従い、裁判官大塚喜一郎の意見があるほか、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

裁判官大塚喜一郎の意見は、次のとおりである。

私は、本件追加出資を本件貸付契約の取引条件とした被上告人の行為に対する法的評価について多数意見に同調することができない。その理由は、次のとおりである。

一  上告理由第一点Ⅱ一(六)及び二は、要するに、本件貸付契約の取引条件として上告人に本件追加出資五〇万円をきよ出させた被上告人の行為は、相互扶助の精神に基づき設立された助成組合である被上告人の基本的性格に反する行為であり、右追加出資の実質は拘束預金にほかならないから、これを拘束預金としなかつた原審の判断は、法令の解釈適用を誤つたものである、というのである。

もとより、出資金と預金とは、その法的性格を異にするが、借受を必要とする金額(多数意見のいう「実質貸付額」)以上の額を契約上名目的に貸し付け、名目貸付額と実質貸付額との差額を拘束する点において、右両者とも、その経済的効用はさして異ならないのであり、したがつて、中小企業等協同組合(以下「中小企協組合」又は「組合」という。)である被上告人が、組合員である上告人に対し本件貸付をするにあたり、その取引条件として本件追加出資をさせたこと(以下「本件条件付貸付」という。)は、独禁法及び利息制限法の適用上、拘束された即時両建預金と同様の法的評価を受けうる余地がある。

二  この点に関連する本件条件付貸付の法的評価をするにあたつて、多数意見は、右貸付をした被上告人が一般の営利的金融機関(以下「一般金融機関」という。)でなく、中小企協組合であることについて、格別の顧慮を払つていないように思われる。しかし、右の法的評価をするにあたつては、被上告人が一般金融機関と基本構造を異にする協同組合であることを考慮すべきであり、協同組合理念に照らし、被上告人の行為を検討することが重要である。

思うに、中小企協組合は、中小企業者の個別収益の助成促進を目的として組織される人的結合体であり、資本主義社会における経済的弱者である中小企業者の自己防衛的相互扶助団体であり、協同組合の一形態として、消費生活協同組合、農業協同組合、漁業協同組合、森林組合等と同様、一八四四年ロツチデール衡平開拓者組合以来の「組合員の相互扶助」、「組合の組合員に対する直接奉仕」、「一人一票主義」等の協同組合理念に基づき設立されているのである。中小企業等協同組合法(以下「法」という。)五条が、組合は、組合員の相互扶助を目的とすべきこと(一項一号、以下「相互扶助性」という。)、組合の行う事業によつて組合員に直接の奉仕をすることを目的とすべきこと(二項、以下「直接奉仕の原則」という。)、組合の議決権及び選挙権は、出資口数にかかわらず平等であるべきこと(一項三号、以下「一人一票主義」という。)等を中小企協組合の基本原則として掲げていることは、わが国の中小企協組合も、右の歴史的・伝統的な組合理念に基づいて設立され、この理念に則つて行為すべきことを明らかにしたものにほかならない。その結果、中小企協組合について、一般金融機関と異なる制約・特典などの諸制度が法定されている。すなわち、組合は、一定地域内の小規模事業者等を組合員とし(法八条四項)、その組織の拡大を内在的に制約されているが、反面、協同組合連合会を組織することができ(法三条三号)、貸付資金に不足するときは連合会からの借入金によつてこれを補い、あるいは連合会に斡旋して組合員の借受需要を充たすことができ(法九条の九、一項二号、この点については、さらに協同組合組織を通じての国の中小企業助成施策もありうることを参考とすべきである。)、また、税法上においても特典(法九条、法人税法六一条一項、同法一一五条二項、租税特別措置法四二条一項二号、地方税法七二条の二二、一項、四項五号)を与えられている。中小企協組合に、かかる一般金融機関と異なる諸制度が設けられている所以は、前述の中小企協組合の基本的性格に基づくものであり、前掲の基本理念にそつた組合の運営を可能ならしめるためである。

三  ところで、本件条件付貸付は、中小企協組合の組合員に対する信用供与行為であり、信用供与という点においては、一般金融機関の顧客に対する信用供与と共通するのであるが、組合の組合員に対する信用供与は、組合の基本的な性格上、次のような特質を有する。すなわち、中小企業者は、自己の個別経済の助成を受けることを目的として組合員となるのであるから、組合と組合員との社員関係は、組合員がその個別利益を図るため、組合と顧客関係・取引関係をもつことを内在的に予定しており、顧客的社員関係として把握されるべきである。そして、顧客関係は、組合員の組合事業(本件の場合は信用供与)利用の需要があるまで、社員関係に潜在しているにとどまり、その需要が生じたときに社員関係から流出して組合対組合員の取引関係として顕在化する。このとき、組合と組合員との間には社員関係と顧客関係がともに顕在化するが、組合員の需要が消滅し取引関係が終了したときには、顕在化していた顧客関係は再び社員関係に沈潜するのである(大塚・協同組合法の研究三五八頁以下)。

右のように、組合員に対する信用供与は、単なる顧客関係・取引関係ではなく、社員関係を基盤とし、これから派生した顧客関係である。したがつて、法五条二項は、前述のように組合の直接奉仕の原則を掲げるが、組合の組合員に対する信用供与を、一般金融機関の如き顧客関係としてではなく、組合が、組合員の組合事業に対する需要に応ずることによつて、組合員の個別経済を助成しているという視点で把えるべきであり、このことによつて、はじめて右信用供与は、組合の組合員に対する直接奉仕としての組合目的にそつた行為となると解しうるのである。しかも、法五条二項は、直接奉仕の原則を規定するにあたり、特に、「特定の組合員の利益のみを目的としてその事業を行つてはならない。」としているが、法五条一項三号が、前記の一人一票主義を規定するにあたり、組合員の社員権はその「出資口数にかかわらず、平等である。」としていることと併せ考えると、右法五条二項は、顧客的社員権から流出した組合と組合員との取引関係にも組合員の社員権平等という組合理念が投影されるべきであり、出資額の多寡により組合員の需要に対して差別的取扱をすべきでないことをもいうものと解すべきである。

以上のように、組合の組合員に対する信用供与は、組合と組合員の顧客的社員関係に基づく、組合の組合員に対する直接奉仕の行為であるところ、本件条件付貸付の法的評価にあたつては、右の特質に照らして考察すべきである。

四  多数意見は、被上告人が上告人に対し、本件貸付にあたり、実質貸付額を超える超過貸付をし、その超過貸付金を拘束預金とさせたことを、本件貸付契約の取引条件であるとし、右のような条件付貸付は、独禁法にいう不公正な取引方法、すなわち「取引上の地位が優越していることを利用」して附された「正常な商慣習に照らして相手方に不当に不利益な条件」であるとしているが、私もこの限度において、右の結論に異論はない。

しかしながら、独禁法に触れる不公正な取引方法の一要件である「正常な商慣習に照らして……不当に不利益な条件」にあたるか否かを考えるにあたつては、その取引の本来あるべき状態に照らして、不当に不利益な条件を附したものであるか否かを判断すべきであるところ、本件貸付は、組合である被上告人の組合員である上告人に対する貸付であるから、組合のなす貸付の本来あるべき姿に照らして本件条件付貸付を評価すべきである。そして、組合の組合員に対する貸付の本質は、叙上のように、一般金融機関の貸付と異なり、組合の基本理念である相互扶助性・直接奉仕の原則によつて貫かれていなければならないのであり、これを併せ考えれば、本件条件付貸付が、右理念から乖離したものであり、組合員である上告人にとつて不当に不利益な条件付取引であることが明確になるものと考えられる。

五  そこで、本件追加出資について検討する。

多数意見は、本件追加出資を本件貸付契約についての「正常な商慣習に照らして……不当に不利益な条件」とはいえないとして、この点についての原審の判断を是認しており、その理由として、右のような追加出資は、より多数の組合員の借入需要に応ずるための資金準備上合理性があり、その額の本件貸付額に対する比率は、全国の信用協同組合における出資額の貸付額に対する標準的比率を逸脱するものではない、としている。ちなみに、原審の確定した事実によると、全国の信用協同組合が採用している貸付基準である出資額の貸付額に対する標準的比率は五ないし一〇パーセントであり、被上告人においても貸付額の八ないし一〇パーセントを保持することを貸付の基準(以下「貸付基準」という。)としており、本件追加出資の要求はこれによつたものであるというのである。もとより、信用協同組合が、貸付資金源の確保等のため貸付基準を保持することは、一般的に是認されるところであるが、問題は、出資金の用意のない組合員に対し貸付金から追加出資金をきよ出させること、そのために貸付金から出資金相当額を即時控除することが、たとえ右出資額が貸付基準の比率内のものであるとしても、許容されるかどうか、である。

ところで、本件貸付は、名目貸付額七五〇万円であり、これと別口貸付四〇〇万円とを合わせると、名目貸付額は一一五〇万円となるところ、被上告人は、そのうち六〇〇万円を拘束預金として預け入れさせ、さらに五〇万円を即時控除して追加出資させ、その残余(正確には、さらに諸経費等を控除している。)のみを上告人に交付しているのである。右取引の金額・態様・名目貸付額と上告人の現実に交付を受けた額、先に述べた信用協同組合における、組織拡大の内在的制約と貸付資金準備についての特別な制度及び税法上の特典、さらに、出資金は、預金と異なりその払戻しが実現することは少なく、拘束性が預金より強いこと等を総合して考えると、本件追加出資を単に貸付基準維持のためにさせた合理性あるものとは首肯しがたくむしろ本件貸付の実質金利を高める手段として拘束預金と併用されたものと解するほかない。そうすると、本件追加出資のみを拘束預金と区別すべきでなく、右追加出資を本件貸付契約の条件の一つとしたことは、被上告人の信用協同組合としての基本理念である相互扶助性・直接奉仕の原則(法五条一項一号、二項)に反するものというべく、独禁法に触れる「正常な商慣習に照らし相手方に不当に不利益な条件」を附したものであり、この点にかんする論旨は理由がある。

六  そこで、右判断を前提として、本件条件付貸付契約の独禁法及び利息制限法上の適否について検討する必要があるが、私は、独禁法一九条の解釈について多数意見に同調するものであるから、その判示するところを援用して結論だけを示すこととしたい。すなわち、本件追加出資及びこれを前提とする本件貸付契約中の右出資額対応部分の貸付は、実質貸付額についての貸付契約に附された取引条件というべきであり、かつ、貸付の取引条件として合理性のないものであつて、右の両契約が複合することによつて組合員たる上告人に対し正常な商慣習上是認しえない不当な不利益を与えているものというべく、法五条一項二号、二項、独禁法一九条、一般指定十及び利息制限法の適用上、被上告人は不公正な取引方法を用いたものであり、結局、本件条件付貸付は、右法条に違反するものであると解する。そして、独禁法一九条に違反する契約の私法上の効力及び利息制限法所定の利率を超過する貸付利息等の是正にかんして、多数意見が即時両建預金について判示するところは、本件追加出資についてもあてはまるから、これを援用する。

よつて、本件追加出資契約及び本件貸付中追加出資額五〇万円に対応する部分の貸付契約は、私法上有効であるとすべきではあるが、本件契約の実質貸付額及び実質金利を算定するうえでは、多数意見のいう実質貸付額五五〇万円からさらに右五〇万円を控除した五〇〇万円を実質貸付額としてその実質金利及び遅延損害金の実質的割合を計算し、上告人が被上告人に対して支払つた利息及び遅延損害金のうち、利息制限法一条一項所定の利率及び同法四条一項所定の割合を超過する部分は、本件貸付契約及び本件別口貸付契約の残元本債務に充当されたものと解するのが相当であり、この意見を多数意見の説く原判決破棄理由に加えるべきである。

(岡原昌男 大塚喜一郎 吉田豊 本林讓 栗本一夫)

上告代理人加藤一芳、同原山剛三の上告理由

第一点 原判決には、判決に影響を及ぼすこと明らかな法令の解釈・適用の誤りがある。

Ⅰ 原判決は、私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(以下独占禁止法と称する)第一九条、二条七項、公正取引委員会告示(以下告示と称する)第一一号の一〇に違反する行為であつてもその違法性の程度の軽いものは私法上有効とし、本件貸付行為は違法性の軽いものとして有効としたのは、独禁法一九条、二条七項、告示第一一号の一〇の法令の解釈・適用を誤つたものである独禁法一九条は、「事業者は、不公正な取引方法を用いてはならない」、と規定し、不公正な取引方法を規定した同法二条七項に基づく告示第一一号の一〇は、「自己の取引上の地位が相手方に優越していることを利用して、正常な商慣習に照して相手方に不当に不利益な条件で取引すること」を不公正な取引方法の一つとして規定しているのである。

おもうに、独占禁止法の右禁止規定に違反する契約は、附帯する取引条件をも含めて無効であり、かかる契約に基づく履行の請求に対しては、債務者はこれを拒否しうるが、ただ、その履行が任意に、あるいは、公権力の介入により強制的に実現された場合(不動産等競売配当金)も、その既に履行された部分は本来無効ではあるが、取引の安全の見地から債務者は無効をもつて対抗しえない場合もありうるのである。

(なお、東京高昭和二八・一二・一判決昭和二八年(ネ)第九〇九号議決権行使停止仮処分異議並びに取消請求控訴事件下級審民集四巻一二号一七九一頁は、取引の安全という見地から相対的有効説を採つているけれども、本件の場合には取引の安全や第三者に対する影響について考慮する必要はないから、同判決は本件に当てはまらないものである。)

上告人主張のように解することは、独禁法の趣旨およびその条項に合致し、また、取引の安全や第三者の利益を害することがなく本件当事者間の公平にも適するのである。即ち、(一)ないし(七)のとおりである。

(一) 独禁法の趣旨に合致すること。

独占禁止法は「一切の事業活動に対する不当な拘束を排除する」(一条)ことを目的とする。その目的を実現するには、違反状態を生ぜしめる法律行為の効力を否認し、これを無効とするのでなければ、当該違反行為をなした事業者は、行為の相手方からその履行を強制され、その結果独占禁止法の禁止又は制限は何等効を奏しない事態が発生することとなるからである。

(二) 独占禁止法一〇二条の規定の趣旨に合致すること。

独占禁止法の禁止規定は、効力規定の性格をもつもので、この規定に違反した法律状態を来す原因となる法律行為はこれを保護すべきではないから、右の規定に違反した契約は効力がないと解すべきことは、独禁法一〇二条の明文に合致する、同法一〇二条の「各規定施行の際現に存する契約で、当該規定に違反するものは、当該規定の施行の日からその効力を失う」との規定は、独禁法施行前になされた有効な契約でも、同法の施行によつて効力を失うことを定めたに過ぎないが、この規定の趣旨から考えて、独禁法施行後同法に違反する契約の効力を否定すべきは当然である。

このように法が一方で行為を無効としているのに、他方で原審判決のように当該行為を是認するのは矛盾というほかないのである。

(三) 排除措置の規定の趣旨に合致すること。

独禁法の定める排除措置(七条、八条の二、一七条の二、二〇条)は、違法な事実状態を除去するためのものである。その中には、営業の一部譲渡、株式の処分、役員の辞任等を命じうべきことを定めているものがある(八条、一七条の二)。しかし法律行為の効力の終局的判断は裁判所の専権であつて、行政官庁である公正取引委員会はその終局的判断をなす、権限を有しないが、当事者があえて違反の状態を事実上出現させている限り委員会はこれを放置することを得ないので、排除措置によつて当該事案につき違法と思料する状態を排除するため適切と判断する行為を命ずるほかないものなのである。従つて右の各規定の趣旨は、ただ、違反行為によつて現実に存在するに至つた経済的状態が第三者の利害と密接に関係するに至つた場合は、排除措置をなすに当り、第三者の権利関係ないし取引の安全に広汎な混乱を来さないように十分の考慮を払いつつ、これを必要かつ適切妥当な限度に止めしめ、それ以外の部分は不問に付させようとしたものであつて、営業用財産や株式の取得などが私法上有効であることを前提としたものではないのである。独禁法の禁止規定に違反する契約を無効とすることは、排除措置を命ずる趣旨と矛盾しないものである。

(四) 原判決は排除措置の趣旨、機能についての法令の解釈を誤つていること。

原判決は、公正取引委員会の活動への期待と排除措置の完備とを、その結論を導く理由として掲げているが、前記のとおり違反行為の有効無効を終局的に判断する権限をもたない委員会活動への期待は、違法性の程度の軽いものだけを有効とする理由にならないのである。蓋し、本件において裁判所が本件消費貸借契約を有効として、その履行を強制すれば、それによつて違反行為は終了したこととなる。委員会の排除措置は現に存する違反の状態を排除するものであるから、違反行為が既に終了した場合には審決の下される機会はなく、従つて排除措置をもつて対処する方法はないまま違反行為により形成された権利関係は永久に存続することになる。違反行為が消滅したのちに独禁法第二〇条により差止命令が下される余地のないことは、同法第五四条が、「公正取引委員会は……第一九条の規定に反する行為があると認める場合には、審決をもつて、……第二〇条に規定する措置を命じなければならない」と規定していることだけからでも明らかである。また、排除措置の完備を理由に独禁法の趣旨が、同法違反行為の私法上の効力を否定することにないと考えることはできない。蓋し、前記のように、排除措置は、その行為が私法上有効か無効かにはかかわりなく、違反行為によつて現実に存するに至つた違法な経済的状態を、その必要とする限度において除去しようとするものだからである。

(五) 取引の安全および第三者の利益を害しないこと。

原審が適法に確定した事実によれば本件においては、契約締結時に上告人より支払われた金員中には第三者との取引が関係する金員がある。即ち、確定日付料、公正証書作成料、印紙代、設定費用、火災保険料等と、その後被上告人が競売により本件貸付債務の履行として受領した金員等については、上告人より無効をもつて対抗しえない場合に当るとすれば本件消費貸借が無効であることによつて利益を害される第三者、利害関係人は存在しないこととなるのであるから、権利関係ないし取引安全の広汎な混乱を来すことはないのである。

(六) 当事者の公平を害しないこと。

原審が適法に確定した事実によれば被上告人は、これまで不動産等競売配当金および連帯保証人等よりの入金分等合計一、一〇八万六、四三〇円を受領していて、これは名目貸付金七五〇万円の約1.47倍、実質貸付金四四八万五、八五〇円の約2.49倍に相当する。そして定期預金二〇〇万円は、上告人に現金を手渡さないで被上告人の所有金をもつて上告人名義で預金したに過ぎないものであるから、仮にこれを適切に処理し、貸付時の天引利息三三万六、二五〇円を右の入金額に加算することとされる場合を想定すると、被上告人が既に得た利益は一層大きなものとなるのである。これに比較し、上告人側は右の支出を余儀なくされたほか、住居とした土地建物をも失つているのであつて、当事者双方の公平が豪末も害されないというより、上告人側の損失のみ大きいといわねばならないのである。

(七) 独禁法第一九条は強行法規であるからこれに違反する事業者の行為は、民法九〇条、九一条により無効である。独禁法第一九条告示第一一号の一〇に違背する以上その違法性の程度の如何に拘らず当該行為の私法上の効力は全て否定されなければならない。

原判決は民法九〇条違反の有無を暴利行為との関係で論じているが、上告人は暴利行為の有無にかかわりなく、独禁法第一九条に違反する行為そのものが公序良俗に反する行為にあたるとする主張なのである。

Ⅱ 原判決は被上告人がなした本件貸付にあたり、拘束預金の貸付額に対する割合が五〇%を超えることになること、及び実質的貸付額に対する実質的貸付利息が年一割七分六厘に相当し、これは利息制限法第一条に定める元本百万円以上の場合年利一割五分を超えるものであることの事実を認定し、右事実認定のうえに立つてこれら取引条件は正常な商慣習に照らして貸付債務者に不当な不利益を強いるものとして、本件貸付が独禁法第二条七項の規定に基づく告示第一一号の一〇に該当し、同法第一九条に違反するものと判断しながら、その違法性の程度は軽微なものとして、本件貸付の私法的効力を無効なものとせず、有効と判断した。

しかしながら、本件貸付の本質的並に付帯的取引条件の内容、性質、態様等を詳細に検討してみれば、右貸付の法違背の程度は極めて重大であり、軽微なものとの評価を受ける余地は全く存しないと云つても過言ではない。それゆえ、原判決の如く、違法性の強いものの行為の効力を無効とする立場に立つとしても、本件貸付行為は違法性が強いものであり無効と評価さるべきであり、この点の判断を原判決は誤つたものである。

一、過大な拘束預金率について

(一) 原判決は適法に左の事実を認定している。

「即ち本件むつみ定期預金関係を入れると、貸付額金一、一五〇万円に対し拘束預金は金六一四万円、その比率は53.3%に上る。本件貸付時までの金貸付を通してみても、貸付総預金一、三〇〇万円に対し拘束預金総額金六九二万円で、比率は約53.2%、最終の段階で貸付金が金一六〇万円、預金が金一〇万円それぞれ増加して拘束預金の比率は約四八%となる。」(原判決理由七、(五))。

(二) 右にいう拘束預金とは、定期積金金一四万円、定期預金金二〇〇万円及び別口の手形貸付金四〇〇万円をもつてするむつみ定期預金金四〇〇万円、以上計六一四万円であるが、右定期積金及び定期預金は本件貸付金の担保として質権が設定され、またむつみ定期預金はいわゆる預金担保貸付として同額の手形貸付の担保に供せられているので、いわゆる狭義の拘束預金の範疇に属するもので貸付金の弁済あるまで預金者が自由に引出すことのできないものであることは明らかである。

そして右三種の預金が上告人のなした預金の全てであつて、拘束預金総額は預金総額に一致するのである。

(三) 拘束預金には、

イ、質権を設定し、正式に担保になつているもの、

ロ、預金証書を金融機関に差入れているか、担保設定書類が差入れられていて当該金融機関の選択する任意の時期に自由に正式の担保設定手続を履践することができるもの、

ハ、念書、口約束で払戻しをしないことを約束しているもの、

ニ、右イ、ないしハ、には該当しないが、預金者が金融機関から払戻しを受けることが事実上困難なもの、

の四種に大別される(甲第一七号証三頁及び三四頁参照)。

イないしハの拘束預金を狭義の拘束預金と呼び、その拘束性は絶対的である。ニ、の拘束預金は狭義の拘束預金と異なり拘束性は絶対的ではないが、拘束されていることに何ら変りなく、イ、ないしハ、を含めて広義の拘束預金と呼ばれている。

前記三種の各預金は右イ、に該当するもので、狭義の拘束預金であるばかりでなく、正式に質権設定が為されている等きわめて厳重に担保力が確保されているのである。

(四) ところで、金融機関の行う歩積・両建預金等のうち適当な拘束預金については、告示第一一号に牴触する不公正な取引方法であるため、昭和三八年頃以降関係行政庁、機関から歩積両積預金の適正化の方針が打ち出され、大蔵省・公正取引委員会の金融機関に対する行政指導、あるいは信用金庫の連絡組織である全国信用金庫協会など業界団体による自粛措置が為されるようになつたが、金融機関の拘束預金適正化は容易に達せられず、適当な拘束預金が依然として存続する現状から数年間にも亘る行政指導とこれに基づく自粛の指導がなされてきたのである。

右経過については甲第一七号証、乙第三三号証に記載あるとおりであるが、これら経過はとりもなおさず一般的に行なわれてきた拘束領金の多くが、適当な不利益を預金者に及ぼすものとして、不当であり、違法なものであることを明白に示すものであると考える。

即ち、甲第三三号証によれば、信用組合における狭義の拘束預金額の貸付額に対する割合は、昭和三九年三月当時では37.9%、同年九月当時では33.4%であり、その後年度の経過とともに右拘束預金率は次第に低下し、昭和四二年五月当時においては11.3%、同年一一月では10.6%にまで至つた。

他方広義の拘束預金率については、昭和三九年度以前の統計資料はなく、同四〇年三月当時では41.8%、同年一一月当時では27.8%であつたが、これも次第に低下の傾向を示し、同四二年五月当時では28.3%と四〇年三月当時のそれより高率であつたが、四二年一一月当時では14.6%と激減しているのである。

そして預金額の貸付額に対する割合は同三九年三月の42.9%から着実に逓減し四二年一一月当時では17.0%になつているが、これら実態調査は、広義の拘束預金が預金の八割ないし九割を占めており、拘束預金率の低下に伴つて預金率がほぼ同じ比率で低下していることを示しているのである。

これを都市銀行、地方銀行、相互銀行、信用金庫、信用組合その他の金融機関の総合計でみてみると、狭義の拘束預金率は三九年三月当時で29.3%、四一年五月では14.5%四二年一一月では9.1%であり、広義の拘束預金率は、四〇年三月当時32.8%、四一年一一月当時19.6%、四二年一一月当時20.3%となつている。

このような拘束預金率の低下は世論の厳しい反対にあつて大蔵省の指導、業界自粛によつて実現したものなのである。

(五) そこで進んで本件貸付が正常な商慣習に照して正当であるか否かが検討されることとなるが、前記記載のとおり、金融機関による過度の歩積・両建は昭和三八年頃より世論の激しい批判にさらされて漸次改善され、昭和四三年頃に至りようやく預金者に対し不当な不利益を強いるものではない程度にまで是正され、右以降は行政庁、業界団体も特に拘束預金緩和のため格別の努力をした形跡を認めることはできない。

換言すれば昭和四二年ないし四三年頃以前に存在した商慣習は正常でないものと判断されるのであり、拘束預金率が一〇%ないし一五%にまで低減した昭和四三年頃には、ほぼ正常と評価されて然るべき商慣習が確立したと云つてよいのである。

前示のとおり信的組合においては昭和四二年末頃には広義の拘束預金率は14.6%、全金融機関の平均をとつても20.3%であることに鑑みれば、53.3%にも及ぶ拘束預金率を示す本件貸付に伴う取引条件としての預金は、過度の負担と不利益を預金者に及ぼすことは明らかであり、正常な商慣習に違背すること甚だしく、その違法性は軽微なものに止まらず、きわめて重大であると云わねばならない。とくに本件はいずれも狭義の拘束預金であるところ、

前記のとおり昭和四二年末の信用組合における狭義の拘束預金率10.6%、平均の9.1%の実に五倍にも達するもので、広義の拘束預金のように預金者において預金の払戻を請求する正当の権利がある場合と異り、貸付金債務の弁済あるまで貸付債権者において払戻を拒否する権利を有する、きわめて拘束性の強い預金を保留するという、その態様の重大さに照らしても、法違反の程度は甚大である。

(六) 以上は、原判決の認定した文字通りの拘束預金について述べたものであるが、なお出資金五〇万円が実質上の拘束預金の性格を有するものであることを看過してはならない。

出資金五〇万円について原判決は、「控訴人が相互扶助の精神に基づき協同して事業を行う信用組合で、その活動の基盤たる資金の殆んどを組合員の出資によらざるをえないものである以上、控訴人が組合員に対し金員を貸付けるに当り、その額すなわち利用分量に応じ、相当な出資を要求するのは不当ではなく、むしろ当然のことというべきである」とし、本件出資金は本件貸付額の約6.6%、実質貸付額五三六万円を基準にして約9.5%であるから、信用組合における一般の取引に照らして不相当に多いものではないと判示する。

しかしながら、右判断の前提となつた「活動の基盤たる資金の殆んどを組合員の出資によらざるをえない」との事実認定は、本件各証拠に照らして重大な事実誤認である。原判決の引用する原審証人横山敬一自身が貸付の資金源が出資金と預金の両者によつて構成されていることを明確に証言している。

被上告人組合が相互扶助の精神に基づき設立されたいわゆる助成組合であつて、組合員たる資格を有する者が預金をし、あるいは貸付をうける地位にあり、組合員たる資格は出資をなすことが不可欠の条件である。従つて信用組合は閉鎖的集団を対象とするものであることはそのとおりであり、そのことは組合の事業が組合員の出資金によるものであることは、第一次的には承認しなければならないところである。

しかし、右に述べた信用組合の法的な建前、法的性格の面からだけではなく、更に信用組合の実態にメスは入れてみれば現実の信用組合が一般都市銀行と同様広く市民から預金を募集し、預金が組合の運動資金のきわめて大なる部分を占め、むしろ出資金よりは預金にこそ事業運営の基盤であることが明白である。原審証人横山仁市の証言、甲第三七号証によれば、被上告人は遅くとも昭和三一年都市銀行、地方銀行に対向して激烈な預金獲得競争を行い、まさに従業員にムチ打つて預金量増大に血眼になつたのであり、昭和四三年度には総預金量一五〇億円を全店、全従業員に指示し、遂にこれが達成をなしとげたのである。

すなわち被上告人の事業運営の基礎は出資金のみならず広く市民から募集する預金にもよつていたのである。

出資金のみを基盤とするという前提に従えば、出資金の控除は止むをえない措置として是認される余地があり、拘束預金の問題とはならない場合があるであろうが、そうでないという前提に立てば出資金は拘束預金として考えなければならない。これを本件についてみると、上告人は既に二回に亘り出資金を払込んで組合員たる地位にあつたのであり、被上告人の資金源は出資金と預金、そして県からの預託金(甲第三七号証)であつた事情からすれば、本件出資金はいわゆる広義の拘束預金と解するのが妥当である。

蓋し出資金の払込によつて持分を有することになつた組合員は法定脱退、又は任意脱退により組合員たる地位を喪失した時に、組合に対し持分の払戻請求権を行使することが出来ると定められ(乙第一号証、第八条以下参照)ではいるが、組合員が資格喪失時組合に対し貸付金債務を負つているときはその払戻を事実上拒否されるものであり、しかも本件貸付時既に組合員であつた上告人に対し、貸付にあたつて更に出資の要請を被上告人が行うのは、専ら貸付金回収の便宜のためであり、持分払戻請求を貸付債務者において為すことができないもので、事実上担保に供せられたものに他ならない。従つて本件出資金が広義の拘束預金に該当すると云わねばならない。

そうすると貸付金一、一五〇万円に対し拘束預金は金六六四万円となりその割合は57.7%にも上る。本件貸付時までの全貸付を通してみても、貸付総額金一、三〇〇万円に対し拘束預金総額金七四二万円(但し、第一、二回の出資金は除く)で比率は57.0%最終の段階で貸付金が金一六〇万円、預金が金一〇万円それぞれ増加して拘束預金の比率は51.5%となること計数上明らかである。

正常な商慣習に照し著るしく不当な不利益を及ぼすものであり、違背の程度は重大である。

二、利息について

原判決は実質貸付額金五三六万円に対する実質的利息率を計算しこれが利息制限法に違反するものか否かを検討しているが、原判決の法違反の程度・態様の検討の仕方は妥当でない。

利息制限法第三条、第二条の規定からも明かなとおり、実質貸付額は、本件名目貸付額から、定期積金一四万円、定期預金二〇〇万円、むつみ定期四〇〇万円に、前記載のとおり出資金五〇万円を加えたものの総額を控除した額としなければならない。

蓋し、本件出資金は前述のとおり専ら貸付債権確保の目的から被上告人が上告人に命じたものであるばかりか、同法第三条の契約締結の費用又は債務弁済の費用に該当せず、利息とみなされる部分であるからである。

従つて実質貸付額は金四八六万円であり、実質利息額は原判決の指摘するとおり一日金二、五八九円であるから、その実質利息率は年利一割九分四厘四毛となり、法所定の年利一割五分を四分四厘四毛も上廻ることとなるのである。

三、結論

以上のとおり拘束預金率、利息をみても過度の不利益を上告人に及ぼしており、これに担保の量、額が相当に上ることを総合的に考慮するならば、法違背の程度は重大である。

よつて違法性の程度は重大であるから私法上無効とされねばならない。

以上の論点より原判決は違法であり、破毀さるべきである。

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